東京理科大学大学院 創域理工学研究科 先端物理学専攻 金井研究室
1999年5月23日生まれ
埼玉県出身
Email: r.moue.0523@outlook.jp
表面物理学 / スピントロニクス
電子は、電荷に加えてスピンをもちます。固体中や固体表面で生じる、電子のスピンが偏極した流れをスピン流と呼びます。スピン流は、理想的にはジュール熱が発生しないことから、エネルギー損失を抑えた情報処理や通信に利用できると考えられています。このことから、スピントロニクス技術分野の発展に大いに貢献することが考えられています。加えて、近年限界を迎えようとしている半導体の微細化技術に、革新的な発展をもたらすと注目を集めています。しかし、スピン流には、信号として伝達される前に緩和してしまうという課題があります。解決策としては、ラシュバ効果を用いて緩和作用に耐えられるほどの大きなスピン流を得るという方法があります。
「ラシュバ効果」とは、固体の表面・界面での空間反転対称性の破れに起因するスピン軌道相互作用 (Spin Orbit Interaction, SOI) により、表面電子状態にスピン分裂が生じるという効果です。特に、貴金属の表面状態にラシュバ効果が現れることがよく知られています。加えて、貴金属表面へ異種原子や分子を吸着させると、ラシュバ効果が増大することが確認されています。この機構を解明し、ラシュバ効果を人為的に増大させることができれば、効率的にスピン流を生み出し、制御することができます。これまで、吸着子に大きなSOIをもつ重原子を選択することで、ラシュバ効果が大幅に増大することが報告されてきました。また、大きなSOIをもたない希ガスや一部の有機分子が貴金属表面へ吸着した系においても、ラシュバ効果の増大が報告されています。一方で、有機分子が貴金属表面上に吸着した際のラシュバ効果の変化の機構については、ほとんど調べられていないというのが現状です。
本研究では、貴金属表面上に吸着した有機分子どうしが相互作用し、長距離的な秩序構造を形成した際に、ラシュバ効果に及ぼす変化を調べ、その機構を解明することを目的としています。